糖尿病の「遺産効果」「高血糖の記憶」とは
上の表では、青い線が早期の糖尿病治療を開始した人、紫の線が糖尿病初期には放置していて、後から治療を開始した人に相当します。紫の人も、数年が経過して合併症が出現してくる頃になると、糖尿病治療に取り組むようになり、その後はどちらの人も同じくらいのHbA1cで推移しています。
ところが、合併症の発生率を見てみると、初期段階で放置していた人では、いくらその後血糖値を良好に保っていたとしても、長年に渡ってそのツケが回ってくる事がわかります。逆に初期から良好な血糖コントロールを保っていた人は、合併症の発生率は低いまま推移している事が分かります。
このように糖尿病初期に頑張った成果は年余に渡ってつづくことを、英語ではLegacy effect(遺産効果)と言います。逆に、どのくらいの高血糖に、どのくらいの期間暴露されたかによってその後の糖尿病合併症の進行が左右されることをMetabolic memoty(高血糖の記憶)と言ったりもします。Legacy effect、Metabolic memoryともに本質的には同じ事を言っています。糖尿病では、いかに初期から良好な血糖値を保つ事が大事かという事です。
糖尿病は放置している人が多い
上の表は、平成24年のデータですが、糖尿病が強く疑われる人の治療の状況です。赤の部分の人たちは、全く未治療で糖尿病を放置していると考えられる層で、緑の部分は治療を一度は受けたが現在は中断している人です。
例えば、40代男性では、52.2%の方が全くの未治療、治療中断が4.9%、計57.1%の方は糖尿病を放置している事になります。
糖尿病は、「治す」病気ではなく、「コントロール」する病気と言えますので、こういった放置状態の方々が将来的な合併症の発症リスクが高く自分を危険に晒していることとなります。年齢が上がるにつれ、受診率は上がっていきますが、それでも4人に1人は治療していない方がいることになります。
こういった未治療であったり中断した理由は何点か考えられます。たとえば
- 糖尿病は自覚症状に乏しいので、治療の必要性に気付いていない
- 仕事が忙しくて受診する時間がない
- 治療費が高額
- 病院の雰囲気が嫌い
- 受診しても、いつも同じ薬をだされるだけで血糖値がよくならない etc
当院では、こういった患者さんの声を真摯に受け止め、患者さんの置かれた状況にあった無理無く継続できる治療を提供出来るように努力しています。いくら医学的には理想的でも、続かなければ意味がありません。
健診で血糖値が高いと言われているが受診をためらって数年経つ方、以前は通っていたが現在は中断してしまっている・・・・こういった方は早めの受診をお勧め致します。
急な体重減少で考えるべき疾患
半年など短い期間で10kg近い体重減少が減った場合、どのようなことが考えられるでしょうか。
もちろん、いま流行りの糖質制限を厳格に行っていればそのくらいの体重減少も不思議ではありません。松村邦洋さんをみても分かります。
こういった痩せようとして痩せた場合はのぞいて、なぜか原因はわからないのに体重が落ちてきてしまったという人がいます。
その場合、もちろん癌などの悪い病気を否定するのが一番大事です。そして下痢や腹痛などの消化器症状が続く場合は、膵炎や炎症性腸疾患なども鑑別に挙がります。咳などが続く場合は、結核などの感染症も否定は出来ません。褐色細胞腫など稀な内分泌疾患も体重減少の原因となります。
これらに当てはまらない場合で最も多いと思われるのが、
・未治療の糖尿病
です。極端に尿が多く出て口が渇くといった場合は糖尿病が急激に悪化している可能性があります。糖尿病による多尿が体重減少の原因かもしれません。
多汗、動悸、震えなどあり首の腫れがある場合は、バセドウ病の可能性が高まります。実際、体重減少を主訴に受診されバセドウ病が発覚した患者さんが、過去3ヶ月で3人いました。
原因不明の体重減少があった場合、これらの疾患の可能性を考えた検査が必要になります。
フリースタイルリブレ活用の実際
先週、実際にフリースタイルリブレを使用されている1型糖尿病の方が受診されましたので、許可を得て画面を撮影させて頂きました。
過去30日間の6時間ごとの血糖値の平均です。
同じく過去7日間のもの。
1日の血糖値の推移がグラフになっています。概ね良好な血糖値と言える青い帯の中にある事がわかります。
同様です。これをみると、8月16日、17日と2日連続で午前中の10時頃に血糖値のピークがある事がわかります。血糖を上昇させるホルモン(インスリン拮抗ホルモン)
の血中濃度のピークが午前中にあることから、1型糖尿病の方で多くみられるパターンです。
操作も簡単ですぐに慣れてしまうようです。現状、保険適応になっていないのがネックですが、血糖コントロール不良の方には非常に有効なデバイスだと考えています。
甲状腺が腫れていると言われたら
健診や人間ドックで、甲状腺の腫れを指摘される方がいらっしゃると思います。
その際、どういったことを心配すればいいのかおおまかにお伝えします。
① まず本当に腫れているのか、腫れているのは甲状腺なのか確かめてみましょう。触診で甲状腺が本当に腫れているかどうか判断するのは、熟練した医師でも難しい場合があります。実際は腫れていない場合もよくあります。甲状腺の超音波検査を施行すれば、確実にわかりますので一度は実施しましょう。痛みもなく簡単な検査ですのでご安心ください。
② 甲状腺が腫れていると判明した場合、大まかにわけて2つのことを考える場合があります。
A . 甲状腺が全体的に腫れている
B . 甲状腺に出来物(腫瘍、嚢胞、過形成など)が出来ている
Aの場合、代表的な病気としては、橋本病、バセドウ病などが挙げられます。これらの病気の場合、甲状腺の働きに異常を伴う事がありますので、採血検査で甲状腺ホルモンを確認する必要があります。また両疾患ともに、自分の甲状腺に対する自己抗体が出来てしまう病気ですのでこれも採血でチェックする方が望ましいです。
大体1週間で採血結果がでます。
Bの場合、代表的には甲状腺癌、腺腫瘍甲状腺腫などが考えられます。サイズが大きく、形がいびつで砂粒のような石灰化を伴うようなものであれば甲状腺癌の可能性がありますので、穿刺吸引細胞診という検査が必要になる場合があります。
腺腫様甲状腺腫など良性と思われる場合は3ヶ月〜1年に1回程度超音波検査でサイズの変化を経過観察していく事になります。
甲状腺が腫れているかもしれない、と指摘された方はお気軽に受診してください。基本的には採血検査と超音波検査を行う事で大抵の甲状腺疾患の診断が可能です。
穿刺吸引細胞診や手術、アイソトープ検査(テクネシウムシンチ)などの精査が必要になる場合は、高次医療機関と連携をとっておりますのでご安心ください。