非糖尿病者より健康になるために5つの事
一病息災(糖尿病ではあるが、糖尿病以外は健康であること)を裏付けるような研究結果が発表されていますので、内容の一部だけを。
糖尿病の人は一般的に、糖尿病でない人に比べ、心血管イベント(心筋梗塞や脳卒中)や死亡のリスクが数倍に上昇することが知られています。
しかし最新のスウェーデンの研究で、5つの危険因子を適切に治療してコントロールできていれば、心筋梗塞や脳卒中、死亡などのリスクは上昇しないとの研究結果が発表されています。それどころか、これら5つを達成した場合、糖尿病でない人に比べても心筋梗塞、脳卒中のリスクが低下する可能性についても触れられています。
5つの危険因子とは、
(1)高血糖(目標:HbA1c7%未満)、
(2)高血圧(目標:収縮期血圧140mmHg未満、拡張期血圧80mmHg未満)、
(3)尿中アルブミン排泄量(腎機能の低下を防ぐ)、
(4)喫煙習慣の有無(禁煙が望ましい)
(5)高LDLコレステロール(目標:97mg/dL未満)。
これらの5つの危険因子を適切に治療していれば、糖尿病でない人の群と比較しても、急性心筋梗塞のリスクは16%低下し、脳卒中のリスクは5%低下したとの結果が出ています。
患者さん個々人で状況は異なりますが、出来る限り上記のような目標を達成出来るようにしていくべきと考えられます。
当院では禁煙外来も行っております。
甲状腺疾患を心配される方へ
当院では、糖尿病だけでなく健診などで甲状腺が腫れていると指摘され受診される方も多くなっています。
最近、都内においては「甲状腺専門クリニック」も多く開業されているようで、また甲状腺専門の有名病院もあります。そういった本当の意味での専門医療機関にかかるべきか否か心配されている方も多いようです。
当院の果たすべき役割、出来る事は何か考えてみます。
甲状腺疾患のスクリーニング検査(最初に行う検査の事で、採血、超音波検査になります)は、クリニックで行っても大学病院で行っても基本的には項目は同一になります。
大事なのはその結果の解釈になると思います。
当院では、なるべく患者さんの不安を解消出来るように丁寧な病気の説明を心がけています。
また、絶対数は少ないですが更なる精密検査(穿刺吸引細胞診、手術、アイソトープ検査・治療など)が必要と判断した方は、高次医療機関へ適切かつ速やかな紹介を出来るように気をつけています。
甲状腺でそれほどの重症の病気は珍しいのですが、大きな出来物に関しては、悪性の可能性が低くても一度は穿刺吸引細胞診を受けて頂くようお話しています。
甲状腺疾患が心配な方は、一度御相談頂ければと思います。
本当に(私の糖尿病は)良くなりますか?
最近、糖尿病初診患者さんにこのような質問を受けることが幾度かありました。
個々の患者さんで病態や生活の状況も違いますので、一律の答えは望ましくないのかもしれませんが、それでもあえて「必ず良くなります」とお答えしています。
ただし、そのためには以下の条件が必要です。
・糖尿病を放置しないこと。
・糖尿病について正しい知識を持つ事。
当たり前の事のように聞こえますが、なかなかこれが出来ていない患者さんが多いと感じており、そういった患者さんは総じて血糖コントロールが悪い傾向にあります。
糖尿病専門外来でのHbA1cが7%を切るような時代となりました。
糖尿病について正しい知識を得て、定期的な通院や合併症のチェックを行い、上手に付き合っていけば、糖尿病を良好にコントロールすることは、ほとんどの場合可能なはずです。
当院では、患者さんに押しつけの治療は決して行わず、患者さん一人一人の「良くなる力」を引き出すように心がけています。そのためには、クリニックではなかなか機会がない、栄養相談も常時受けられるようにしています。
医療機関に対する抵抗感や過去の不愉快な思いをした経験などから糖尿病を放置している方は多くいると感じています。
当院では、説教や強制的な治療は行いません。なぜなら、お互いが不幸になるだけだからです。血糖コントロールを継続的に良好に保つには、両者が力を合わせることが大事です。
まとまりのない文章となりましたが日頃感じている事を綴らせて頂きました。
栄養相談行なっています
健診で糖尿病、脂質異常、尿酸値、高血圧、メタボリックシンドロームなどを指摘され、どうしたらいいかお悩みの方は多いのではないでしょうか。まずは生活習慣の見直しが必要です。継続的な改善のためには、すぐに内服治療を行うより、食事など生活習慣の見直しが必須です。当院では、常勤の管理栄養士が勤務しておりますので、ぜひ栄養相談を受けて頂くことを推奨しております。ご希望の方は日程などお問い合わせ下さい。
健診で「血糖値が高め」と言われた場合
健診を受けると「ちょっと糖が高め」「様子をみましょう」と言われる方が多いと思います。いわゆる境界型とかアメリカでは前糖尿病(prediabetes)と言われるような方ですが、実はそのなかにはブドウ糖負荷試験を行うと既に糖尿病になっている方も混じっています。初期の糖尿病は、健診やドックで行う空腹時の血糖値とHbA1cだけでは2、3割が見逃されるといった報告もあります。
糖尿病の診断のためには、まずブドウ糖負荷試験(当院でも毎日のように施行しており、甘いソーダを飲んで2時間後までの血糖値を採血する簡単な糖尿病の診断の検査です)をお勧めしますが、ではその検査まで行って糖尿病に至っていない方は放置しておいていいのでしょうか。今日は糖尿病初期の方、もしくは境界型でも軽視してはいけない理由についてupしてみました。
「軽症」の糖尿病を放置してはいけない3つの理由
- 境界型から、心血管疾患のリスクが上昇
HbA1cが6.0〜6.4程度のいわゆる境界型の時期でも、食後の血糖値が高いタイプでは心血管疾患のリスクが高いことが知られています(DECODE study、舟形町研究など)。食後高血糖や、それに対応した高インスリン血症は血管内皮機能を低下させ動脈硬化を進展させると言われます。糖尿病じゃなくて、境界型で良かった・・とはならないのが現実です。
2. “高血糖毒性”の悪循環を招く
高血糖そのものがインスリン工場である膵β細胞機能を低下させ、ひいては血糖コントロールが難しい進行した糖尿病を招きます。この負のスパイラルに陥らないために、軽度の高血糖の時期から、血糖値の正常化を目指した治療が必要です。
3. 合併症は、予防するしかない
血糖コントロールの悪い状態で数年経過すると糖尿病特有の慢性合併症が出現してきます。合併症に関しては、出てしまったものに関しては基本的に取り返しがつきません。初期からの良好な血糖コントロールを続けることが一番重要です。ある意味、糖尿病で最も大事な時期は、発症初期なのです。
やはり糖尿病は、早期発見・介入、継続治療が大事です。
若者にも多い甲状腺疾患:バセドウ病について
原因不明の動悸や体調不良、多汗で悩んでいる方はいませんか?最近も2人の患者さんが数ヶ月前からの動悸、体調不良、体重減少(1人の方は1年で10kg痩せていました)で受診され、バセドウ病が発覚し治療を開始しています。バセドウ病は、比較的若い方にも多く(1人の方は10代でした)、女性が男性のおおよそ2〜4倍程度の発症率と言われています。体の代謝を活発にする甲状腺ホルモンが多量に作られてしまうため、「常に走っているような状態」になってしまいます。また、特有の眼症と言われる顔つきの変化も特徴的です。眼球突出や眼瞼後退(まぶたが上に上がったような感じになります)で気付かれる方もいます。昔からバセドウ病は美人が多いと言われる事もあるようですが、大きな目がその理由かもしれません。確かに某美人女優さんなどでこの病気をもっていた方もいます。
治療としては現状では9割以上の方が飲み薬で行なっていますが、必要に応じて手術やアイソトープ治療の適応になる場合もあります。なんとなく落ち着かない、手が震えるなどの症状から精神科を受診されて診断が遅れている方が多くいます。該当するような症状のある方は是非一度は甲状腺のチェックをお勧めします。
血糖値が良くならない時に考えるべきこと(再掲)
糖尿病患者さんが良好な血糖コントロールを保つのはそれほど簡単なことではありません。
糖尿病の外来を受診して血糖コントロールが悪化すると、主治医から「食事や運動をもっと気をつけなさい」と言われる患者さんが多いと思います。
もちろん、ストレスで食事が乱れたり冬場は寒さの影響もあって運動不足に陥ることが多いのは確かです。適切な食事療法、運動療法というのは糖尿病治療の根幹ですし、それはどんなに医学が発展しても変わらない事だと思います。
しかし、血糖値が悪化する原因として、食事と運動以外に考えなくてはならないことが何点もあり、医師としてはそれを見逃してはならないと思っています。
糖尿病は、年々血糖コントロールが難しくなっていく病気
⇒糖尿病発症時点で、血糖値を下げるホルモンであるインスリンを分泌する膵臓のβ細胞の機能は、糖尿病でない人の約半分になっているというデータがあります。要するに、「ちょっと糖が高い」とか「境界型」と言われている方でも、血糖値を下げる能力は高度に低下している事になります。そして、糖尿病を発症すると常に血糖値が高い状態になり膵臓は働き尽くめになります。年々膵臓は疲れ果て、果てはインスリンの泉は枯れていく事になります。
ですから、今通用してる糖尿病の薬も数年後には不十分となる事が当たり前の話なのです。
患者さんにあった薬や治療法が選択されていない
⇒明らかにメタボで過体重の患者さんに、栄養指導なども行わず更に肥満を招くようなSU薬と言われるような薬のみで治療したとしたら、より糖尿病を悪化させるといっても過言ではありません。
逆に痩せ型でインスリン分泌が悪いこと(生活習慣に大きな問題はなく、遺伝的、体質的な問題が大きいです)が原因の患者さんに、「もっと食事を制限しろ、もっと運動しろ」といったら栄養失調になり健康を損ねる事は明らかです。
血糖値が高いといってもその原因は様々です。個々の患者さんに合った治療が選択されていない場合、「糖尿病治療」がむしろ糖尿病を悪化させることすらありえます。
インスリンの調整が適切になされていない
⇒インスリン注射をしている患者さんで、ずっと同じ単位の注射を何年もしている患者さんをみかけます。また、自己血糖測定をしているにも関わらず、ほとんど主治医に見せる事もなく、血糖値が高い事を確認するだけになっているケースもよく見かけます。
自己血糖測定をする大きな目的が、ある時点での血糖値がいつも高い場合、そこに効いているインスリンの量を調整して血糖値を改善していく事です。
「責任インスリン」ともいいます。例えば、超速効型インスリンは、食後1〜2時間の血糖値の責任インスリンです。持効型インスリンは、空腹時血糖値の責任インスリンです。
食後1〜2時間の血糖値がいつも200以上など高い場合は、食直前に打っている超速効型インスリンを増量しましょう。
朝(空腹時)の血糖値がいつも高い場合は、1日1回打っている持効型インスリンを増量しましょう。
もちろん、インスリンの調整も例外は多々ありますが(ソモジーなど)、まずは責任インスリンの原則で地道に調整していけば、ほとんどの患者さんで目標の血糖コントロールに近づけることが可能となります。
他の病気を併発している
⇒最も怖いケースですが、たとえば悪性疾患(がん)を発症したことで血糖値が悪化していることがあります。特に糖尿病では膵臓がん、肝臓がん、大腸がんの発症率が増える事が知られています。血糖値が急に悪化した場合、これらの病気が隠れていないか速やかに調べる事が必要です。
血糖値に影響する薬を飲んでいる
⇒他科で処方されている薬で血糖値が悪化していることが良くあります。
代表的なのがステロイド剤、抗精神病薬です。患者さんが他科を受診している場合、服薬内容を必ず確認する必要があります。
自戒の意味も込めてですが、血糖値が悪化した患者さんに出会った時、すぐに患者さんの不摂生が原因と決めつけてはいけません。日々、糖尿病は難しい病気だと実感する次第です。