diabetesian’s blog

糖尿病専門医、草加市、内科

糖尿病と癌について

糖尿病患者さんの注意する事と言えば、特有の慢性合併症(神経障害、網膜症、腎症など)が頭に浮かびますが、実は癌が増える事が判明しています。

 

下の図は、糖尿病患者さんの死因の統計ですが、癌(悪性腫瘍)が1位となっています(これは、日本人全体の死因1位と同じです)。ところが、問題なのは、糖尿病患者さんは、そうでない人に比べて癌になる確率が高いということです。

 

        日本人糖尿病患者の死因

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                      日本糖尿病学会誌50(1) 47-61 2007

 

 

これはアメリカのものですが、糖尿病と癌のリスクについてのデータです。

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              Johnson J:ADA 70th Scientific Sessions, 2010,Orland

日本では糖尿病で特に増えると言われるのが、肝臓癌(肝細胞癌)、膵臓癌、大腸癌と言われていますが、その他の癌も増える傾向が認められます。個人名を確証がなく挙げるのはどうかと思いますが、先日亡くなられた野球の星野監督も長年糖尿病を患っていたとの情報を見ました(これにつきましては真偽は不明です)。

また上の表では前立腺癌が唯一リスク低下(減る)傾向となっていますが、これは糖尿病患者において男性ホルモンが低下することとの関連が指摘されています。

 

米国糖尿病学会と米国癌学会が合同でコンセンサスレポートを発表

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Giovannuci E,Cancer J Clin,60,4,2010/Giovannuci E;Diabetes Care,33,1674,2010

 

このような状況を受けて、上記のような提言が出されています。

現代医学においても、100%の確率で早期癌の発見は難しいのは事実です。糖尿病患者さんは、必要以上に恐れることはありませんが、定期的ながん検診を受けましょう。

 

当クリニックでは、少なくとも市のがん検診(肺癌、大腸癌)、1年に1回の腹部エコー(当院で施行しています)は推奨し、症状や希望に応じて胃カメラ、大腸カメラ、CTなどの検査の推奨や紹介を行っていく方針です。

 

血糖値が良くならない時に考えるべきこと(再掲)

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糖尿病患者さんが良好な血糖コントロールを保つのはそれほど簡単なことではありません。

糖尿病の外来を受診して血糖コントロールが悪化すると、主治医から「食事や運動をもっと気をつけなさい」と言われる患者さんが多いと思います。

もちろん、ストレスで食事が乱れたり冬場は寒さの影響もあって運動不足に陥ることが多いのは確かです。適切な食事療法、運動療法というのは糖尿病治療の根幹ですし、それはどんなに医学が発展しても変わらない事だと思います。

しかし、血糖値が悪化する原因として、食事と運動以外に考えなくてはならないことが何点もあり、医師としてはそれを見逃してはならないと思っています。

 

糖尿病は、年々血糖コントロールが難しくなっていく病気
⇒糖尿病発症時点で、血糖値を下げるホルモンであるインスリンを分泌する膵臓のβ細胞の機能は、糖尿病でない人の約半分になっているというデータがあります。要するに、「ちょっと糖が高い」とか「境界型」と言われている方でも、血糖値を下げる能力は高度に低下している事になります。そして、糖尿病を発症すると常に血糖値が高い状態になり膵臓は働き尽くめになります。年々膵臓は疲れ果て、果てはインスリンの泉は枯れていく事になります。

ですから、今通用してる糖尿病の薬も数年後には不十分となる事が当たり前の話なのです。

 

患者さんにあった薬や治療法が選択されていない
⇒明らかにメタボで過体重の患者さんに、栄養指導なども行わず更に肥満を招くようなSU薬と言われるような薬のみで治療したとしたら、より糖尿病を悪化させるといっても過言ではありません。

逆に痩せ型でインスリン分泌が悪いこと(生活習慣に大きな問題はなく、遺伝的、体質的な問題が大きいです)が原因の患者さんに、「もっと食事を制限しろ、もっと運動しろ」といったら栄養失調になり健康を損ねる事は明らかです。

血糖値が高いといってもその原因は様々です。個々の患者さんに合った治療が選択されていない場合、「糖尿病治療」がむしろ糖尿病を悪化させることすらありえます。

 

インスリンの調整が適切になされていない
⇒インスリン注射をしている患者さんで、ずっと同じ単位の注射を何年もしている患者さんをみかけます。また、自己血糖測定をしているにも関わらず、ほとんど主治医に見せる事もなく、血糖値が高い事を確認するだけになっているケースもよく見かけます。

自己血糖測定をする大きな目的が、ある時点での血糖値がいつも高い場合、そこに効いているインスリンの量を調整して血糖値を改善していく事です。

「責任インスリン」ともいいます。例えば、超速効型インスリンは、食後1〜2時間の血糖値の責任インスリンです。持効型インスリンは、空腹時血糖値の責任インスリンです。

食後1〜2時間の血糖値がいつも200以上など高い場合は、食直前に打っている超速効型インスリンを増量しましょう。

朝(空腹時)の血糖値がいつも高い場合は、1日1回打っている持効型インスリンを増量しましょう。

もちろん、インスリンの調整も例外は多々ありますが(ソモジーなど)、まずは責任インスリンの原則で地道に調整していけば、ほとんどの患者さんで目標の血糖コントロールに近づけることが可能となります。

 

他の病気を併発している
⇒最も怖いケースですが、たとえば悪性疾患(がん)を発症したことで血糖値が悪化していることがあります。特に糖尿病では膵臓がん、肝臓がん、大腸がんの発症率が増える事が知られています。血糖値が急に悪化した場合、これらの病気が隠れていないか速やかに調べる事が必要です。

 

血糖値に影響する薬を飲んでいる
⇒他科で処方されている薬で血糖値が悪化していることが良くあります。

代表的なのがステロイド剤、抗精神病薬です。患者さんが他科を受診している場合、服薬内容を必ず確認する必要があります。

 

 

自戒の意味も込めてですが、血糖値が悪化した患者さんに出会った時、すぐに患者さんの不摂生が原因と決めつけてはいけません。日々、糖尿病は難しい病気だと実感する次第です。

11/14は世界糖尿病デー

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2006年12月

結核マラリアエイズHIV)などの感染症以外では初めて、

糖尿病が全世界、人類の脅威であるとの決議を国連が採択。

2007年から11/14を世界糖尿病デーと制定しブルーライトアップが

日本、世界中で行われています。

最新の国民栄養調査では、とうとう糖尿病の人(強く疑われる人)が1千万人、境界型の人が1千万人と計2千万人を越えています。日本においても国民病ともいえる状況になってきています。

HbA1cが高いまま推移している、治療を中断してしまっている、健診でひっかかったけど見てみぬふりをしている・・・・こういった方は早めに医療機関を受診してください。

 

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糖尿病の「遺産効果」「高血糖の記憶」とは

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上の表では、青い線が早期の糖尿病治療を開始した人、紫の線が糖尿病初期には放置していて、後から治療を開始した人に相当します。紫の人も、数年が経過して合併症が出現してくる頃になると、糖尿病治療に取り組むようになり、その後はどちらの人も同じくらいのHbA1cで推移しています。

 

ところが、合併症の発生率を見てみると、初期段階で放置していた人では、いくらその後血糖値を良好に保っていたとしても、長年に渡ってそのツケが回ってくる事がわかります。逆に初期から良好な血糖コントロールを保っていた人は、合併症の発生率は低いまま推移している事が分かります。

このように糖尿病初期に頑張った成果は年余に渡ってつづくことを、英語ではLegacy effect(遺産効果)と言います。逆に、どのくらいの高血糖に、どのくらいの期間暴露されたかによってその後の糖尿病合併症の進行が左右されることをMetabolic memoty(高血糖の記憶)と言ったりもします。Legacy effect、Metabolic memoryともに本質的には同じ事を言っています。糖尿病では、いかに初期から良好な血糖値を保つ事が大事かという事です。

糖尿病は放置している人が多い

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上の表は、平成24年のデータですが、糖尿病が強く疑われる人の治療の状況です。赤の部分の人たちは、全く未治療で糖尿病を放置していると考えられる層で、緑の部分は治療を一度は受けたが現在は中断している人です。

例えば、40代男性では、52.2%の方が全くの未治療、治療中断が4.9%、計57.1%の方は糖尿病を放置している事になります。

糖尿病は、「治す」病気ではなく、「コントロール」する病気と言えますので、こういった放置状態の方々が将来的な合併症の発症リスクが高く自分を危険に晒していることとなります。年齢が上がるにつれ、受診率は上がっていきますが、それでも4人に1人は治療していない方がいることになります。

こういった未治療であったり中断した理由は何点か考えられます。たとえば

  1. 糖尿病は自覚症状に乏しいので、治療の必要性に気付いていない
  2. 仕事が忙しくて受診する時間がない
  3. 治療費が高額
  4. 病院の雰囲気が嫌い
  5. 受診しても、いつも同じ薬をだされるだけで血糖値がよくならない     etc

当院では、こういった患者さんの声を真摯に受け止め、患者さんの置かれた状況にあった無理無く継続できる治療を提供出来るように努力しています。いくら医学的には理想的でも、続かなければ意味がありません。

 

健診で血糖値が高いと言われているが受診をためらって数年経つ方、以前は通っていたが現在は中断してしまっている・・・・こういった方は早めの受診をお勧め致します。

 

 

 

急な体重減少で考えるべき疾患

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半年など短い期間で10kg近い体重減少が減った場合、どのようなことが考えられるでしょうか。

もちろん、いま流行りの糖質制限を厳格に行っていればそのくらいの体重減少も不思議ではありません。松村邦洋さんをみても分かります。

こういった痩せようとして痩せた場合はのぞいて、なぜか原因はわからないのに体重が落ちてきてしまったという人がいます。

その場合、もちろん癌などの悪い病気を否定するのが一番大事です。そして下痢や腹痛などの消化器症状が続く場合は、膵炎や炎症性腸疾患なども鑑別に挙がります。咳などが続く場合は、結核などの感染症も否定は出来ません。褐色細胞腫など稀な内分泌疾患も体重減少の原因となります。

 

これらに当てはまらない場合で最も多いと思われるのが、

・未治療の糖尿病

バセドウ病

です。極端に尿が多く出て口が渇くといった場合は糖尿病が急激に悪化している可能性があります。糖尿病による多尿が体重減少の原因かもしれません。

多汗、動悸、震えなどあり首の腫れがある場合は、バセドウ病の可能性が高まります。実際、体重減少を主訴に受診されバセドウ病が発覚した患者さんが、過去3ヶ月で3人いました。

 

原因不明の体重減少があった場合、これらの疾患の可能性を考えた検査が必要になります。