diabetesian’s blog

糖尿病専門医、草加市、内科

大事なのは、HbA1cや血糖値だけ?

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最近、不整脈の患者さんとお会いする事が増え、以前読んだ「不整脈で困ったら」を引っ張りだして読み返してみました。

非常に分かりやすく読みやすい本で、現代の医療に対する警鐘を含んだ本であると改めて感じました。

山下先生のメッセージは、一言で言えば心電図をみるだけでなく、患者さんをみなさいと言う事だと思います。例えば、有名なCAST studyでは、陳旧性心筋梗塞の患者さんの心室性期外収縮(PVC)を減らすために抗不整脈薬を投与した患者さん、そのまま経過を見た患者さんを比較しました。その結果は・・・・抗不整脈薬を投与した患者さんは不整脈の数自体は減ったのですが、寿命に関してはそのまま経過をみた患者さんより短い結果となってしまたのです。心電図だけ見れば、不整脈が減ったのですから「良くなった」のですが、患者さんの寿命が短くなっては本末転倒です。

心電図の波形を治すことに一生懸命になりすぎるがあまり、患者さんの将来、生活の質や症状に思いが至らず・・・といったケースが多すぎるというメッセージと感じました。医師、患者ともに専門医志向が高くなり過ぎた1つの弊害かもしれません。

糖尿病に置き換えても、血糖値やHbA1cだけをみて、それを下げる事ばかり考えていては、肝心の患者さんのことが置き去りになりかねません。

本当の意味での、個別化医療とは、患者さんの体型や糖尿病の罹病歴などだけでなく、糖尿病や人生に対する考え方まで含めているのだと思います。その部分まで踏み込み、患者さんとコミュニケーションを図りながら治療を進めていかなければならないと、不整脈の本を読んで、糖尿病診療についても考えました。

1型糖尿病の「ハネムーン期」とは?

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1型糖尿病では、発症早期にインスリン分泌が枯渇してインスリン依存状態(インスリン注射をしないと生きられない状態)に陥ることが多いです。

ところで、1型糖尿病に「ハネムーン期(ピリオド)」と言われる期間があることをご存知でしょうか。急性に発症した1型糖尿病患者さんは、極端な高血糖ケトアシドーシスに陥り、多くの場合緊急入院になります。そして、入院中頻回なインスリン注射と血糖測定を行い、状態が安定すれば外来通院となるわけです。

ところが外来通院を始めてしばらくした頃、むしろ低血糖傾向となりインスリンを減量したり、場合によってはインスリン注射を中断する必要性が出てくる場合があり、この期間のことを通称ハネムーン期と呼んでいます。

入院中、1型糖尿病は一生インスリン注射が必要で、体調の悪い日(シックデイ)でも絶対にインスリン注射はやめてはだめ(シックデイルール)と教え込まれたのに・・・・と納得のいかない顔をした患者さんも診てきました。

このハネムーン期と言われる期間は、1型糖尿病患者さんが適切なインスリン注射による初期治療を受けた場合、残存していた膵臓(β細胞)の機能が回復し、”一時的”に自己インスリン分泌能力が回復する事によると考えられています。しかし、この残存した膵β細胞もやがて破壊を受け、インスリン分泌は進行性に低下していきます。

よって、一時的にインスリンの必要量が減ったり、中止出来たりしてとしても、最終的にはインスリン分泌能は枯渇し、再度しっかりとしたインスリンの補充が必要となる事がほとんどです。このことを念頭に医療者も患者さんもハネムーン期に向き合う必要があります。

また、2型糖尿病においても、しっかりとした初期治療受けた後、いわゆる「糖毒性が解除」され必要なインスリンや内服薬が減ることが多いです。よく糖尿病の医師が言う「糖毒性が解除された」というのも、広い意味ではハネムーン期という事が出来るのかもしれません。

初めにこの「ハネムーン期」という呼び方を知った時、糖尿病に似つかわしくないけど、どこか心に残るネーミングだなと引っ掛かった思い出があります。本日、外来でハネムーン期と思われる患者さんとお会いしたため、筆(?)をとった次第です。

血糖値が悪いのは、患者さんの努力が足りないから?

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糖尿病患者さんが良好な血糖コントロールを保つのはそれほど簡単なことではありません。

糖尿病の外来を受診して血糖コントロールが悪化すると、主治医から「食事や運動をもっと気をつけなさい」と言われる患者さんが多いと思います。

もちろん、ストレスで食事が乱れたり冬場は寒さの影響もあって運動不足に陥ることが多いのは確かです。適切な食事療法、運動療法というのは糖尿病治療の根幹ですし、それはどんなに医学が発展しても変わらない事だと思います。

しかし、血糖値が悪化する原因として、食事と運動以外に考えなくてはならないことが何点もあり、医師としてはそれを見逃してはならないと思っています。

 

  • 糖尿病は、年々血糖コントロールが難しくなっていく病気

⇒糖尿病発症時点で、血糖値を下げるホルモンであるインスリンを分泌する膵臓のβ細胞の機能は、糖尿病でない人の約半分になっているというデータがあります。要するに、「ちょっと糖が高い」とか「境界型」と言われている方でも、血糖値を下げる能力は高度に低下している事になります。そして、糖尿病を発症すると常に血糖値が高い状態になり膵臓は働き尽くめになります。年々膵臓は疲れ果て、果てはインスリンの泉は枯れていく事になります。

ですから、今通用してる糖尿病の薬も数年後には不十分となる事が当たり前の話なのです。

 

  • 患者さんにあった薬や治療法が選択されていない

⇒明らかにメタボで過体重の患者さんに、栄養指導なども行わず更に肥満を招くようなSU薬と言われるような薬のみで治療したとしたら、より糖尿病を悪化させるといっても過言ではありません。

逆に痩せ型でインスリン分泌が悪いこと(生活習慣に大きな問題はなく、遺伝的、体質的な問題が大きいです)が原因の患者さんに、「もっと食事を制限しろ、もっと運動しろ」といったら栄養失調になり健康を損ねる事は明らかです。

血糖値が高いといってもその原因は様々です。個々の患者さんに合った治療が選択されていない場合、「糖尿病治療」がむしろ糖尿病を悪化させることすらありえます。

 

  • インスリンの調整が適切になされていない

⇒インスリン注射をしている患者さんで、ずっと同じ単位の注射を何年もしている患者さんをみかけます。また、自己血糖測定をしているにも関わらず、ほとんど主治医に見せる事もなく、血糖値が高い事を確認するだけになっているケースもよく見かけます。

自己血糖測定をする大きな目的が、ある時点での血糖値がいつも高い場合、そこに効いているインスリンの量を調整して血糖値を改善していく事です。

「責任インスリン」ともいいます。例えば、超速効型インスリンは、食後1〜2時間の血糖値の責任インスリンです。持効型インスリンは、空腹時血糖値の責任インスリンです。

食後1〜2時間の血糖値がいつも200以上など高い場合は、食直前に打っている超速効型インスリンを増量しましょう。

朝(空腹時)の血糖値がいつも高い場合は、1日1回打っている持効型インスリンを増量しましょう。

もちろん、インスリンの調整も例外は多々ありますが(ソモジーなど)、まずは責任インスリンの原則で地道に調整していけば、ほとんどの患者さんで目標の血糖コントロールに近づけることが可能となります。

 

  • 他の病気を併発している

⇒最も怖いケースですが、たとえば悪性疾患(がん)を発症したことで血糖値が悪化していることがあります。特に糖尿病では膵臓がん、肝臓がん、大腸がんの発症率が増える事が知られています。血糖値が急に悪化した場合、これらの病気が隠れていないか速やかに調べる事が必要です。

 

  • 血糖値に影響する薬を飲んでいる

⇒他科で処方されている薬で血糖値が悪化していることが良くあります。

代表的なのがステロイド剤、抗精神病薬です。患者さんが他科を受診している場合、服薬内容を必ず確認する必要があります。

 

 

自戒の意味も込めてですが、血糖値が悪化した患者さんに出会った時、すぐに患者さんの不摂生が原因と決めつけてはいけません。日々、糖尿病は難しい病気だと実感する次第です。

 

 

 

 

花粉症について真面目に考える

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2月以降、すでにスギ花粉によると思われる花粉症の症状を訴えられる患者さんが増えています。花粉症のつらさはなった人間にしか分からないと思うのですが(私も完全な花粉症で薬が欠かせないのでよくわかります)、しっかりとした治療を受けないと仕事もままならない状態になりかねず社会的な損失も非常に大きいと思われます。

そこでたかが花粉症と思わず、花粉症について真面目に書いてみる事にします。

 

花粉症かどうかはどのように診断するのでしょうか?

当然、鼻水やくしゃみ、目のかゆみがあり、季節的に花粉が舞っていれば花粉症の可能性が非常に高いと思います。

しかし、鼻水や鼻づまりがあっても花粉症ではなく実は他の原因という事もあります。詳細は述べませんが、以下のような鼻炎の原因があります。これらをしっかりと除外することも重要です。

鼻水が中心

・味覚性鼻炎(辛い物を食べた時に鼻汁が出現)

・冷気吸入性鼻炎(寒い空気を吸入した時に花がむずむず)

・老人性鼻炎(老年になると起床後や食事中に鼻汁が出現)

鼻づまりが中心

・薬剤性鼻炎(降圧剤や噴霧薬による)

・妊娠性鼻炎(妊娠中期に起こることが多い)

心因性鼻炎(ストレスやうつなどに伴う事が多い)

・内分泌性鼻炎(甲状腺機能低下症による)

・寒冷性鼻炎(手足の急激な冷えによる)

・乾燥性鼻炎(暖房などによる乾燥による)

 

花粉症の診断は概ね以下のように行われます。

くしゃみ、鼻汁、鼻閉(鼻づまり)

      +

以下の検査のうち、2つ以上陽性であれば診断可能

・鼻汁好酸球検査

・皮膚テスト(皮内テスト、スクラッチテスト)

 また血清特異的IgE抗体検査

・鼻誘発検査

 

現実的には、おそらく症状と季節で治療を始めている医療機関がほとんどと思いますし、それで問題はないと思いますが、上記のうち血清特異的IgE 抗体検査は内科でも行う事が多いです。現在200種類以上のアレルゲン(アレルギーの原因物質、花粉症であればスギ、ヒノキ、ハンノキ、ブタクサなど)に対する検査が可能で、参考になります。

 

花粉症の治療

基本はアレルギーを抑える薬の内服となります。

ところが、鼻水が中心の場合、鼻づまりが中心の場合、それぞれがどの程度重症かによって薬を使い分ける必要があります。

・くしゃみ、鼻水中心型

⇒第2世代抗ヒスタミン薬(クラリチン、アレグラ、アレロック、ザイザルなど)

 ケミカルメディエーター遊離抑制薬(インタールなど)

 

・鼻詰まり中心型

⇒抗ロイコトリエン薬(オノン、シングレア、キプレスなど)

 鼻噴霧用ステロイド薬(ナゾネックス、アラミストなど)

 ※重症の場合  点鼻用血管収縮薬(昔、私もナシビンをよく愛用していました)

         経口ステロイド

 ※目の症状がある場合点眼薬を追加します。

 

薬の内服中は以下のことに注意してください。

・薬は花粉症シーズンが終わるまできちんと服用してください。

・症状がでないからといって服用をやめるとかえって強い症状が出ます。

・眠気やだるさがあれば医師に相談してください(眠気の少ないタイプの薬に代えた方が無難です)

・薬を服用していても花粉の飛散が多い時は症状が出る事もあります。

・薬を継続していても効果が薄れることはありません。

・効果には個人差があります。

 

 

 

 

糖尿病の症状「三多一少」

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糖尿病になると、どのような症状があるのでしょうか。

初期段階では、ほとんど自覚症状はないと言うのが正しい答えでしょう。自覚症状が出にくいゆえに、気付かずに放置され糖尿病が重症化してしまい、合併症が進行してしまう患者さんが後を絶ちません。自覚症状が出にくいというのは、むしろ糖尿病の怖さの本質かもしれません。

ところが糖尿病が進行し、血糖値が300を越えるような状態となると、タイトルにかいた「三多一少」と言われる症状が出てきます。

三つ多いものは、多飲、多食、多尿、一少ないものは、体重減少です。(実は、僕自身、三多を最近まで多飲、多、多尿と思っていました)。とにかく口が渇き、お腹が空く、トイレが極端近い、たくさん食べる割にどんどん体重が減ってくる・・・・このような症状が出ていれば既にかなりの高血糖になっている可能性がありますので、すぐに糖尿病の検査(血液検査で血糖値、HbA1cを調べましょう)が必要です。

ただ、最初に述べたように糖尿病は症状のでない初期段階で診断し、早期に治療を開始する事が一番大事です。

初期段階の糖尿病を診断するには、ブドウ糖負荷試験といわれる甘いソーダ水を飲んで2時間にわたる採血検査を行うのがベストです。

健診で「ちょっと糖が高い」と言われた方は、一度ブドウ糖負荷試験を受ける事をお勧めします。

長引く咳について

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一般内科の外来をやっていて非常に多いのが長引く咳の症状です。

ところで「長引く」というのはどのくらいの期間から言うのでしょうか。患者さんの感覚からすると1週間も咳が続けば、苦痛が強く長引いていると感じるのですが、医学的な基準でいうと、なんと8週間以上ということになります。3週間未満は急性、3週間以上8週間未満を遷延性、8週間以上を慢性とクラス分けされています。

 

では、咳の原因は何があるのでしょうか。

ここで、咳の続いている期間がひとつの目安になります。

3週間未満の急性の咳では、圧倒的に感染性の咳が多いとされます。感染性の咳とは、いわゆるかぜウイルスや、その他マイコプラズマ、肺炎クラミジア、百日咳などによるもののことを指します。この場合、痰の多い咳となる事が多いです。かぜウイルスによる咳の場合特効薬はなく咳止めなどの対症療法を行ったり、自然治癒を待つしかないのですが、マイコプラズマや肺炎クラミジア、百日咳に関しては初期の段階で抗生剤を使うことで咳や熱で苦しむ期間を短縮することが出来ます。また、周囲の人への感染を防ぐ役割も抗生剤は持っています。

感染性の咳の原因であるウイルスや菌にかかった後、咳だけがのこる感染後の咳も非常に多く、急性、遷延性、もしくは慢性的な咳となることもあります。この場合痰の少ない乾いた咳になる事が多く、漢方薬(麦門冬湯など)が有効なこともあります。

2ヶ月以上も続くような慢性の咳で最も多いとされているのが、咳喘息です。喘息は本来、息を吐く際にヒューヒューと音(喘鳴といいます)がするのですが、咳喘息の場合、喘息に典型的な喘鳴はなく、咳が唯一の症状となります。症状としては夜間~明け方に多く、季節性がみられる場合もあります。一般的な咳止めは無効なことが多く、喘息の治療薬である吸入(ステロイドや気管支拡張剤)やアレルギーの薬が有効なことが多いです。

その他、慢性の咳の原因としては、肺結核や肺がん、間質性肺炎COPDなど本当の肺疾患によるもの、降圧剤(ACE阻害薬)の副作用、蓄膿副鼻腔炎)に伴ったもの、逆流性食道炎に伴ったもの・・・・多岐に渡ります。

 

長引く咳が有った場合、まずは怖い病気を否定するため、一度は胸部レントゲンや胸部CTを撮っておくことが無難です。そして、様々な状況を考慮して治療法を考えていく必要があります。

 

 

クリニック看板設置しました

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草加市松原団地駅東口ロータリー内にある草加パートナーズ内科・糖尿病クリニックです。

クリニックは四階にありますが、ビルの壁面及び窓に看板とシールを設置しました。

実は、この看板の色合いを決めるのは業者の方と何度も打ち合わせし、ある程度視認性が良いこと、医療機関なので上質感があることを目標に制作しました。

駅前で四階ですので、警察に許可をとり深夜に二日間かけて設置しました。作業して下さった職人さん大変ありがとうございました。

実際、設置された看板を見たときは本当にイメージ通りで大満足でした。通りかかる方がどの程度気づいてくれるかなど反応が楽しみです。

 

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