diabetesian’s blog

糖尿病専門医、草加市、内科

「血糖値スパイク」に要注意

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10月8日、「”血糖値スパイク”が危ない 〜見えた!糖尿病・心筋梗塞の新対策〜」と題したNHKスペシャルが放送されていました。

おおよその内容としては、

・糖尿病ではない人の中に、食後の短時間だけ血糖値が急上昇する(血糖値スパイクと名付ける)人が約1400万人いる

・血糖値スパイクが血管を傷つけ心筋梗塞脳梗塞のリスクを飛躍的に高める

認知症の増加とも関連している

といったものです。

 

 

この放送を見て、糖尿病でもないのに食後少しの時間血糖値が高いだけで心筋梗塞が増えるとは一体どういうことかと疑問に思った方も多いでしょう。

しかし、このことに関しては糖尿病専門医の間ではかなり以前より常識とされております。DECODEスタディーと言われる研究では、朝食前の血糖値が正常の方でもブドウ糖負荷試験(甘いソーダ水を飲んで2時間に渡り血糖値の推移を調べる検査です)で2時間後の血糖値が境界型(140-199)であっても死亡率が上がる事が知られているからです。死亡率が上がる原因としては、心筋梗塞などの増加が原因と言われています。

なぜ、食後の高血糖により心筋梗塞が増えるのでしょうか。この答えに関しては、完全な解答は出ていませんが、食後高血糖が酸化ストレスや血液凝固、炎症などを惹起し、血管内皮機能障害をもたらし、プラークの形成などを誘発するからと考えられています

 

ではどうしたらいいのか。糖尿病まで至ってないけれど、健診では「ちょっと糖が高い」「糖尿病予備軍」と言われていると言われている方は、残念ながら糖尿病にはなってないから問題ない・・・とは言えないわけです。

食後1時間〜2時間後に血糖値が200程度まで上昇する方は、心血管病の増加を注意しなければなりません。ちなみに、全く糖尿病の気の無い方は、1日中70〜140mg/dLの間で血糖値は推移しています。どんなに甘いものを食べた直後でも、血糖値は150を越えない事が普通なのです。

 

私も普段の外来で患者さんに言っている基本的なことですが、まずは以下のことを生活に取り入れてみましょう。

 

1、食事の順番に注意する。食後1、2時間の血糖値を上げるのは、炭水化物、糖質がメインです。ごはん、パン、麺類など主食と言われる食物です。まず、野菜などの血糖値を上げないものを食事の前半でたべ、その後副食である肉、魚、大豆などをたべ、主食は食事の後半にもってくることが理想的です。そうすることで、食後の血糖値の上昇が緩やかになります。これは、CGM(持続的血糖モニタリング)でも実証されている食事療法ですので、地味なようでいてかなり効果が見込めます。懐石料理では最後に締めでご飯物がでてきますよね。そういったイメージです。

 

2、主食はなるべく低GIのものを取り入れる。ご飯は五穀米や麦飯、パンはライ麦パン、全粒粉パンなどの低GIのものを取り入れると効果的です。白飯、食パンなど白いもの程、高GIの傾向があります。ちなみにGIとは、グリセミックインデックスの略で、その食品の血糖上昇を招くスピードの指標と思ってください。

 

3、1日3食、なるべく均等に規則正しく食べる。1食抜けば、やはりまとめ食い、大食いになり、食後の過度の血糖上昇を招きやすいです。朝食や昼食は簡単に、夕食は豪華にとなりがちですが、なるべく3食均等にたべることも大事です。

 

4、朝食をしっかり食べる。3と同じじゃないかと言う声が聞こえてきそうですが、実は朝食を抜いた方が昼食前の血糖値が高くなる事が知られています。意外に思うかもしれませんが、朝食を抜く事でむしろ脂肪酸などの上昇を招き、血糖値にも悪影響なのです。やはり3食しっかりたべましょう。

 

5、食後にごろごろしない。特に食後高血糖のある方は、食後に寝転がってテレビをみていては、下がる血糖値も下がりません。食前に運動するのも悪くありませんが、そういう方にとっては食後の運動こそ一石二鳥です。

 

長々と綴ってみましたが、簡単にまとめますと

 

1、糖尿病の「予備軍」、「境界型」でも、食後血糖値が高くなると(大体高くなってきています)、心筋梗塞脳梗塞などの心血管病が増えます。

 

2、ですので、「予備軍」、「境界型」だから良かったとはならないのです。そういった知識をもった内科(できれば糖尿病専門医が理想ですが)を受診して、しっかり管理していくことが理想です。

 

3、食後血糖値を強力に下げる薬もありますが、まずは食事の順番や低GIのものを取り入れる、食後の運動などを試してみましょう。

 

 

 

 

SGLT-2阻害薬、低空飛行から抜け出せるか(記事)

 

【TREND】SGLT-2阻害薬、低空飛行から抜け出せるか  製薬企業は科学的データ積み重ねを( 日刊薬業 2015年2月12日 )
 SGLT-2阻害薬が低迷状態から抜け出せない。製薬企業の2015年3月期第3四半期決算によると、売上高を開示している4社の実績は発売当初からほとんど伸びず、実消化に結びついていない。長期処方解禁を今春に控え、あらためて戦略の練り直しを迫られている.


●伸びない売上高
  「新薬でこれほど低いシェアを見たことがない」。川崎医科大の加来浩平内科学特任教授は東京都内で開かれたセミナーで、糖尿病治療薬におけるSGLT-2 阻害薬の位置付けに対し、若干の憤りを込めてこう話した。昨年4月以降に発売された5製剤合計の処方シェアはわずか1~2%しかなく、薬効に対する評価が 「誤解されている」という。

 実際、第3四半期までの売上高は表の通りで、発売時点の出荷額からほとんど上積みされていない。業績非開示の外資系企業も同じだ。アステラス製薬の「スーグラ」だけは先行の利があってか33億円まで伸ばしたが、市場全体の活気のなさが数字からはっきりと分かる。

  大型化を期待した新規作用機序の新薬でありながらこうした状況が生まれたのは、スタート時点での“締め付け”が強すぎたからだ。医薬品医療機器総合機構が 安全性に関するモニタリングを求めたり、関連学会も高齢者への慎重投与などを要請した。昨年6月には日本糖尿病協会の「適正使用委員会」がレコメンデー ションを発表。死亡例を強調した副作用報道とも相まって、医療現場が使用を控える傾向に拍車が掛かったといわれる。

 これら一連の動きは、短期間に複数製品が発売されるため、過当競争による不適切な使用を招かないよう対策を講じたものだ。これに対応して製薬企業側も、従来にない綿密なPMSを実施することになった。

●長期処方解禁も、効果どこまで

  結果として予想外の低空飛行となったSGLT-2阻害薬だが、今年5月からは順次、長期処方が解禁される。通常の生活習慣病関連薬ならこれを機に市場拡大 に弾みがつくが、現在の医療現場の評価からその可能性は高くないかもしれない。加来氏も「発売時点でかけたブレーキが効きすぎた」とし、「長期処方解禁後 も処方が拡大するかどうか分からない。普及には時間がかかるのではないか」とみる。

 ただ、報告された副作用の発生頻度や内容は、想定の 範囲を超えていない。米国でも「インヴォカナ」(国内製品名「カナグル」)が専門医処方でトップレベルにあるなど、安全性への懸念が強いわけではない。国 内では厳格なPMSによる「レポーティング・バイアスがあるのではないか」(加来氏)と見られ、ネガティブな意識を一定期間で払拭できるかが今後の処方動 向を左右する一つの鍵にもなりそうだ。

●積極的な情報提供の必要性

 長期処方解禁後、各社はどんなプロモーションを展開 すればいいのか。加来氏は日刊薬業の取材に「製薬企業は科学的に(ベネフィットとリスクを)検証する義務がある」と話し、積極的な情報提供の必要性を示唆 した。憶測ではなくデータを積み重ねた上で、医療現場に適切な判断をしてもらうことが重要との認識からだ。処方に当たっては、脱水の原因になる浸透圧利尿 作用が服用後1~2週間で起こるため、「解禁後も(長期処方せずに)状態をみながら来院してもらう」方法もあるという。

 経口糖尿病治療 薬のトップシェアとなったDPP-4阻害薬は、今後もしばらく薬物治療の中心となるだろう。患者に対し詳細な説明が不要で使い勝手がよいだけに、その地位 は揺るぎそうにない。しかし、SGLT-2阻害薬には全ての薬剤と併用でき、体重減少や血圧低下効果などのメリットがある。それを最大限生かせるセグメン トも、決して少なくはない。(穴迫 励二)

1型糖尿病って?

日本IDDMネットワーク 1型糖尿病・1型IDDM

👆1型糖尿病について、患者さん向けの情報提供、ネットワーク、また1型糖尿病根治に向けた研究に対して基金の設立などを行っているNPOです。

一臨床医として、非常に感銘を受けたのが、昨年の冬から開始された、1型糖尿病発症間もない患者さんとその家族に対して、1型糖尿病に関する知識やtipsのつまった「希望のバッグ」を無償で届けようと言うプロジェクトです。実際、中高年発症の女性の1型糖尿病患者さんが、このバッグを受け取って非常に役に立ったと喜んでおりました。ただ、あまりの人気で現在品切れ状態のようで、準備が整い次第再会されるようです。

以下は、患者会向けの広報誌に載せた(私が)ものを転載しました。1型糖尿病が「治る」時代が早くくるといいですね。

(転載開始)

japan-iddm.net


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阪神タイガース岩田稔選手。高校2年生時に1型糖尿病を発症。1日4回インスリン注射をしながらも、プロ野球選手になった。公式戦で1勝するたびに10万円をIDDMネットワーク(1型糖尿病患者さん向けのNPO団体)に寄付している。

今回は、1型糖尿病について取り上げてみます。日本人の糖尿病の9割以上が「2型」糖尿病です。2型糖尿病は、典型的には遺伝的な素因を持った方が、中年以降、肥満や運動不足などの生活習慣の乱れから発症します。

では、「1型」糖尿病とは、❶どんな人が、❷どのくらい発症し、❸原因は何で、❹治療はどうするのでしょう?

❶どんな人が:日本での発症のピークは思春期にあり、10〜14歳が最も多いと言われています。小児糖尿病と呼ばれることもありますが、もちろん大人になってから発症される方もいます。

❷発症率:大体1年間あたり、10万人に1〜2人発症すると言われます。

❸原因:まだ完全には解明されていない部分がありますが、何らかのウイルス感染(風邪をひくのもウイルス感染です)をきっかけに、自分の体のリンパ球があやまって内乱を起こし、自分自身のインスリン工場、膵臓のランゲルハンス島B細胞、の大部分を破壊してしまうことで発病するようです。

❹治療:インスリン注射が原則です。現時点では、一生インスリン注射を続ける必要がありますが、iPS細胞などの技術の進歩で近い将来治る病気になるかもしれません。

ある日1型糖尿病を発症し、医師から「治らないから、一生インスリン注射が必要だよ」と宣告された際の患者さん、ご家族の精神的なショックは、想像するに余りあります。ただ、現在はインスリン製剤も良くなり(インスリンポンプを使用する事もあります)、良好な血糖コントロールを保てば、プロ野球選手にもJリーガーにもなれる時代になった事も事実なのですね。医療者ももっと勉強する必要を感じます。 

 

糖尿病の”6大合併症”

糖尿病とは合併症の病気だと言われます。

3大合併症は、「しめじ」で覚えてらっしゃる方も多いと思います。「し」が神経障害、「め」が網膜症、「じ」が腎症のことで、典型的には順番的にもこの通りに発症してきます。

最近は5大合併症と言われるようになりました。今度は、「えのき」で覚えてください。「え」が壊疽など糖尿病足病変、「の」「き」が脳梗塞狭心症など動脈硬化性疾患の事です。えのきと3文字なのに、2つじゃないかって思われるかもしれませんが気にせず覚えてください。

ところが最近は、6大合併症なんでいわれるようになりまして、あと1つ追加です。これが歯周病です。糖尿病患者さんは歯周病になりやすく(2.6倍なんて数字もあります)、また歯周病になると糖尿病のコントロールが悪化することが知られています。なんでかと言いますと、歯周病というのは歯周ポケットで細菌が悪さをして炎症が常に起きている状態です。この炎症(慢性炎症なんていいます)が、血糖を下げるインスリンの効きを悪くする(インスリン抵抗性)ことが知られております。ですので、糖尿病になったら歯周病のチェックが非常に重要ですので、歯医者さんとは仲良くしておきましょう。

歯周病の発症率、2型で2.6倍高く - 弘前大学企画 - アピタル(医療・健康)

 

最後にまとめ

3大合併症→し(神経障害)、め(網膜症)、じ(腎症

5大合併症→え(壊疽、糖尿病足病変)、のき(脳梗塞狭心症動脈硬化性疾患

6大合併症→歯周病が加わる。

肥満治療薬

以前は極端な肥満者に対してだけ(BMI35以上など)マジンドールという薬がありましたが、実際に使うことはほとんどなく、その効果も疑問符のつくものでした。

最近の新規糖尿病薬であるSGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬(これはそれほど新しくありませんが)、リパーゼ阻害薬であるセチリスタットが、減量効果あり注目を集めております。

しつこいようですが、薬’だけ’でやせるものは、未だ存在しないわけですが、肥満外科手術とともに、今後内服薬が注目されていくのは間違いない事でしょう。